The Decisive Strike

Pulvis et umbra sumus.

ネットをよくするって、どうすれば: JADE設立について

長山です。お元気ですか?自分はこの2ヶ月、膝栗毛に失敗したり叔父が急逝したり、諸々ばたばたしつつも、久々に吸う日本の春の空気を楽しんでおりました。これからも日本に住むことを楽しみにしています。住みなれし花のみやこの初雪をことしは見むと思ふたのしさ、という想いです。

Google を退職したことは既に前のエントリで書きました。その中で書いた「これからやること」リストの中で、回顧録のこと、ミルクハニーのこと、膝栗毛のことは既に色々動いていますし、ひょっとしたら Twitter などでフォローしてくれたいた方もいらっしゃるかもしれません。ただ、「インターネットをよくする」ということに関しては、リストの中で唯一具体性のないものとして浮いている状態になっていました。

それをきちんと具体性のある形で実現するため、株式会社JADEという会社を立ち上げました。自分、長山一石が代表取締役社長 / Chief Executive Officer、SEO で有名な辻正浩が代表取締役副社長 / Chief Optimisation Officer、広告運用で有名な小西一星が広告担当執行役員 / Chief Advertisement Officer、という形で、3人で始めた会社です。無事無職を卒業して、社長という肩書きになりました。社会的信用という点でいうと、起業したての社長など、大して無職と変わらないかもしれませんが…笑

ja.dev

辻正浩氏を誘うまで

さてこの会社、自分がまず辻さんを誘い、そして次に小西さんが合流する、という流れでできた会社でした。よく「どちらから、どうして、どのように誘ったのですか」、と聞かれるので、ちょうどそれを行なったメールを公開します。自分は昨年末に祖父を亡くしているため、2019年が明けてから、「寒中お見舞い申し上げます」、というメールを送った以降での流れでした。

辻さん、

ありがとうございます。

仕事をする上で最も重要なのは、誰と一緒に働くか、だと思っています。もちろん何をなすかや、どのような条件かも非常に大事なのですが、特に何か新しいことをなそうとするならば、信頼できる人間と共に始めることが肝要だと考えます。

そういう意味で辻さんと一緒に仕事ができたらそれはとても楽しいだろうと思っています。誰が代表か、ということは個人的にはあまり重要ではありませんが笑、個人的には、自由に動けて、かつ社会的に意味のありインパクトがある仕事を、信頼できる人と共になすことができる環境を作ることができれば最高だと思っています。もちろん存続・発展可能なビジネスモデルを作ることも大事なのですが。

というわけで改めて提案しますが、一緒に日本のインターネットを良くする会社を立ち上げませんか?Webコンサルということならば、SEO面もそうですが、プロダクト設計やサービス運用、組織づくりまで、総合的なコンサルティングができる会社ができそうかなと思いますし、ベースとなるミッションが明確であれば、コンサル以外のこともできないかなと思います。

それではご検討のほどよろしくお願いいたします。

長山

ご覧の通りざっくりとした誘い方で、この時点でビジネスプランなどがあったわけではありません。しかし、それまで仕事をしてきた中で、辻氏が信用でき、かつ有能な人間であることは確信できると考えていました。自分は仕事の文脈で人を見るとき、大まかにわけて以下のような基準を持っています。

  • (内的倫理) どのような状態が理想であるかに関する理念を持っているか
  • (課題発見) 倫理に基づいて課題を発見することができるか
  • (問題解決) 発見した課題に対して、適切な解決法を提示し、実行することができるか

辻氏はこれらの基準に照らし合わせても、トップ1%に入る人材であり、また、「インターネットをより良い場所にする」ということ、そして、「日本社会にコミットする」ということに関しても、同じ理念をもって動くことができるだろう、と考えました。

今回のことを話すとしばしば驚かれるのですが、

  • 信頼できる有能な人と、
  • 社会に対するよいインパクトがある仕事を、
  • できるだけ自由な環境で行いたい、

と考えた時に、わたしにはこの動きが最適解であるように思われます。この誘いに対して、辻氏がどう考え、どう反応したかについては、彼のブログ記事をご覧ください。

webweb.hatenablog.com

小西一星氏が合流するまで

さて、辻とわたしが一緒になって、グロースとインテグリティをキーワードに、プロダクトに関するコンサルティングを提供する、となったとき、知識のポートフォリオをリストにすれば、例えば以下のようなものがあると思います。

  • 検索エンジン、特に Google の仕様
  • サイトトピックごとのユーザー動向
  • 内的ポリシー制定と手動対策運用
  • スパムフィルタリングシステムの構築とフィルタ運用、機械学習
  • 探索的データ分析と仮説検証
  • バックエンドプロダクトマネジメント

などなどありますが、どれだけリストを細分化しても、特に、グロースに関する部分で、絶対的に欠落している部分があるのは明白でした。広告です。わたしは広告に関する知識はゼロでしたし、辻も検索だけにフォーカスしてやってきた人間です。しかしサイトをしっかり成長させようとする時、広告が必要になる局面は必ず来ます。その際にしっかりとしたサポートを提供できる会社でなければ、総合的なグロースのコンサルティングは難しい、ということは自明でした。

そこでたまたま、以前から辻と親交がある小西氏と飲む機会がありました。彼は Advertiser Community の Top Contributor ですから、わたしも知ってはいましたが、直接、親密に話すのは初めてでした。しかしじっくり話すにつれて、彼が広告運用者として抱えている課題の構造が、辻が SEO に関して抱えていた課題とほぼ同じであることが明確になってきました。本当にグロースを目指すのであれば、まずは真っ当なプロダクトを作ること、そして、それをしっかりとシステムに理解させること、それが必要である、ということです。

人格的にも、彼が信用できる人間であることはすぐにわかりましたから、わたしが「一緒にやりますか?」という誘いを出すまでにあまり時間はかかりませんでした。

それに対して小西氏が何を考え、どう答えたかは、彼のブログ記事をご覧ください。

sem-cafe.jp

インターネットをよくするぞ

では、現在の日本のインターネットには、具体的にどのような改善すべき点があるででしょうか。

1. Google に関する誤解を解く: 会社としても、検索エンジンとしても

わたしが Google でアウトリーチの仕事などをしていてしばしば感じたことは、「日本には、Google に関する誤解が数多くある」ということでした。それは noindex の仕様などといった検索エンジンについてのことから、「広告を買えば検索ランキングも上がる」「Googleはプライバシーに関するデータを悪用している」といった会社の体質に関わることまで、多岐にわたるものです。

もちろん Google からの情報発信の缺乏ということもあります。一方で、情報が発信されているにもかかわらず、それが誤解されていることがしばしばあることも事実です。それは仕様に関わる単純なものから、会社の体質に関わる複雑なものまで様々ですが、そういった誤解が出てくる度、それを是正するために動くことは必要であると考えます。

Google は神でも悪魔でもありません。それはあくまで経済合理性に基づいて判断を行う世界的大企業のひとつです。ただ、理想主義的側面を多分に持ったシリコンバレーのスタートアップとして始まった、という根幹は今でも変わっていません。検索エンジンのコアを作っているエンジニアたちは、Google検索を理想のランキング函数へとたどり着かせるために日々情熱を持って開発を行っていますし、世界的大企業になったいまでも、上層部は理念を持って組織を導こうとしています。

2. 良いサービスが自然に成長できるようにサポートする

これは上記の問題に由来することでもあるのですが、検索エンジンの使用に関する無知や誤解がもとで、本来ならばより成長すべき素晴らしいサービスの自然な成長が阻害されている、ということはしばしばあります。また、その魅力がユーザーに伝わりにくい形で隠れてしまっている、ということもあります。そういった本来の成長を阻害する要因を取り除くこと、そして、そのサービスの本来の魅力がよりユーザーに伝わるようにすること、それをサポートすることが必要です。

と、言うだけでは簡単ですが、それを行うのは容易ではありません。そのためには、サポートするサービスに関して、

  • (バリュー) その本質的価値がどこにあるのか、
  • (プロダクト) どのようなフェーズにあり、ロードマップがどのようなものか、
  • (実装) そのウェブサイトとしての実装がどうなっているか、
  • (ユーザー動向) ユーザーがサイト上で何を見て、どう反応しているか、

をじっくりと理解することが必要となるからです。もちろん我々にとっても容易ではないことですが、このメンバーならおそらく可能であろうと信じています。

3. 外的脅威からプラットフォームを守る

プロダクトを作ろうと思った時、まずは素晴らしいものを作ること、そしてそれを成長させることにフォーカスすることがまず必要です。そして日本には、それを行った結果、素晴らしいプラットフォームとなったサービスが数多くあります。

けれどもプラットフォーム化したサービスには、新たな悩みが付いて回ります。それは、プラットフォームを脅かす外的脅威です。例えばUGCであれば、検索エンジンを狙ったコメントスパムが沸くことはよくあります。ユーザー間でコミュニケーションが取れるサービスでは、ユーザーの間で揉め事になることもしばしばあります。なにがしかのランキングが発表されるとき、そのランキングを自らに有利な形で操作しようとするアクターも少なくありません。

そういった脅威が発生した際に、どのようにしてプラットフォームを守っていくか、ということは非常に大きな問題です。Twitter や Google では、Trust & Safety という部署があり、そのような問題に対していかにして対策するか、という問題に日々向き合っています。

このような問題、adversarial problem と呼ばれる領域は、実はプロダクト、エンジニアリング、アナリシス、オペレーションにまたがる、分野横断的なものです。しばしばこういった問題の向こうには意図的にその問題行動を行なっている人間がおり、その心理を読み解くことが必要となってきますから、単にエンジニアリング的アプローチを取るだけでは十分でないこともしばしばあります。スパムひとつ取っても、まず何をスパムと定義し、どのようにルールを作り、そして何をラベルとして機械学習モデルを作るのか、という問題は、容易に解決可能なものではありません。そういった分野に関して大きな知見を持っているコンサルティング企業は、おそらくあまり多くないのではないかと思っています。

4. 悪い動きに立ち向かう

よいことをする、のは難しいことです。よさとは何か、という定義の問題があり、それに対する回答は複数でありうるからです。けれども、悪いことをしない、ということはそれよりも少しだけ容易です。人間社会において、どこにいっても悪とされることの形はだいたい似通っているからです。ですから、インターネットにおいて、明確に悪い動きがあるときに、それに対して立ち向かい、情報発信を行なっていくことはとても重要だと考えています。辻はそれを「なまはげ」と呼称しました。わたしたちはヒーローでも妖怪でも自動的存在でもありませんが、できることならば、少しでも悪い動きを食い止めるために微力でも動いていければと思っています。

できることを、ひとつづつ

長くなってしまいましたが、これから、できることをひとつづつ、愛をこめてやっていこうと思います。千里の道も一歩から、長い長い中山道も、日本橋を出るところから始まるのですから。

株式会社JADEを、どうぞよろしくお願い致します。